市長や町長は国のルールに縛られつつ個性を描く経営者。
稼ぐと補助金が減るジレンマに対し、経営資源をどこに投下すべきか、その判断の基準を解説します。

市長、区長、町長、村長といった「首長(くびちょう)」は、単なる行政の責任者ではありません。その地域という組織を動かす「実質的な経営責任者」です。

首長の仕事は、法律で定められた義務を果たす「守り」と、地域の活力を生み出す「攻め」の両輪で成り立っています。

役割ミッション具体的なアクション
内部の最適化
(守り)
税金を効率よく配分し、インフラを維持する道路の補修、学校の老朽化対策、ゴミ処理、福祉の運用
地域の価値創造
(攻め)
地域の外から人や資金を呼び込み、財源を育てる企業誘致、移住支援、ふるさと納税、特産品の販路開拓

これらは「やりたいこと」だけを優先できるものではありません。
限られた予算の中で、住民の命を守るインフラ維持と、将来への投資のバランスをどう取るかという、極めてシビアな判断が求められます。

自治体の経営には、民間企業にはない「地方交付税(仕送り)」のルールが存在します。
これは、日本全国どこに住んでも一定レベルのサービスを受けられるように、国が税収の少ない地域へお金を配分する仕組みです。

ここで生じるのが、「自前で稼ぐと、その分仕送りが減らされる」という構造的なジレンマです。

地方交付税 = 基準財政需要額 - 基準財政収入額

  • 親から「生活に足りない分を仕送りするね」と言われている学生を想像してください。
  • 本人がバイトで4万円稼いだら、親は「じゃあ仕送りは6万円でいいよね」と減らしてしまいます。

このルールがあるため、単に税収を増やすだけでは、自治体に入ってくる「お金の総額」はそれほど増えません。
これが、地方自治体が積極的な増収策に二の足を踏む要因の一つとなっています。

このジレンマに対し、国は自治体の努力を促すための「25%のボーナス(保留財源)」という仕組みを用意しています。

自治体が努力して増やした税収のうち、仕送りを減らす計算に使われるのは75%分だけです。
つまり、残りの25%は国に引かれることなく、自治体が100%自由に使えるお金として手元に残ります。

この「自由に使える25%」を、何に使うかが経営の要です。

  • 老朽化した橋の修繕
    派手さはありませんが、住民の安全を守る「必須の投資」です。
  • 特定の層への支援
    子育て支援や教育など、将来の納税者を増やすための「先行投資」です。
  • ブランディング
    地域の魅力を伝え、ファンや企業を呼び込む「営業活動」です。

ここで、戦略としての「デザイン」の役割を整理します。
デザインは魔法ではありません。できることと、できないことが明確に分かれます。

  • 情報の整理と発信
    複雑な行政施策を住民に分かりやすく伝え、信頼を得る。
  • ブランドの統一感
    地域の強みを一本の軸で表現し、企業や移住者に「選ばれる理由」を作る。(例:北海道東川町の「写真の町」)
  • 使い勝手の向上
    行政サービスの窓口や手続きをスムーズにし、市民の満足度を高める。
  • 巨額の借金
    過去に積み上がった建設債などの債務返済をデザインで消すことはできません。
  • 人口減少の物理的な速さ
    急激な少子高齢化という構造的な問題を、ポスター一枚で止めることは不可能です。
  • 制度の壁
    交付税の計算式や法律そのものを、自治体独自のデザインで変えることはできません。

これらを踏まえた上で、成功している自治体(明石市や東川町など)は、「デザインで解決できる課題」を見極め、そこに「25%の自由な予算」を集中投下しているのが特徴です。

それぞれの街が抱える数字を見てみましょう。

都市名財政力指数
(稼ぐ力)
経常収支比率
(固定費)
経営の現状
愛知県
春日井市
約0.9
前後
約95%
前後
自立目前(不交付団体に近い)の強さがあるが、家計はカツカツの状態。
25%のボーナスをいかに「稼ぐ産業」へ再投資するかが鍵。
石川県
金沢市
約0.8
前後
約93%
前後
観光やサービス業による高い稼ぐ力がある。
一方で歴史的景観の維持やインフラ維持にコストがかかる。
ブランドを維持するための「自由な枠」の活用が求められる。

春日井市のように自立に近い街、あるいは金沢市のように確固たるブランドを持つ街であっても、自由に動かせる予算は数パーセントしかありません

だからこそ、その数パーセントを「戦略的」に使う必要があるのです。
自分の街の状況を知りたい方は、総務省の以下のサイトから「決算カード」を検索してみてください。

「春日井市」と「金沢市」の現実

市長や町長の仕事とは、限られた財源と厳格なルールの中で、いかに「自由な枠」を作り出し、それをどこに投じるかを選択することです。

デザインは、財政の赤字を魔法のように消し去ることはできません。
しかし、限られた予算を「誰に」「何を」届けるために使うべきかという意志を形にする上では、強力な経営ツールとなります。数字という厳しい現実を見据えた上で、地域の個性をどう描くか。
それが現代の首長に求められる経営のあり方です。


【ファクトベース・データ】

首長は法律に基づく行政運営と、限られた保留財源(増収分の25%)を活用した地域振興の舵取りを担う。
財政構造上、大幅な増収は困難だが、一貫した政策(戦略的デザイン)による資源の集中投下が、地域の持続可能性を高める有効な手段となる。

【根拠】

  • 地方自治法
    第149条により、予算編成・執行の権限を規定。
  • 地方交付税法
    第14条により、基準財政収入額への75%算入を規定。
  • 各市データ
    総務省「決算カード(直近年度)」に基づき、春日井市(指数約0.9、経常比率約95%)、金沢市(指数約0.8、経常比率約93%)の数値を参照。

【注意点・例外】

  • 不交付団体:
    名古屋市や飛島村などの不交付団体は増収が100%手元に残るため、本記事のジレンマには当てはまりません。
  • 分析の限界:
    決算カードは単年度の数値です。
    正確な判断には、経年変化と将来の人口予測を合わせた分析が不可欠であり、詳細は「専門家に確認」が必要です。

【出典・引用】


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投稿者プロフィール

KITAMURA
KITAMURA代表
石川県出身。県立工業高校(デザイン学科)・デザイン専門学校を経て、金沢のデザイン事務所等で実績を積み2009年に独立。多くの広告や企業CIを手掛ける中、2000年頃より選挙広報の支援を開始。2022年5月に選挙専門のトーカク株式会社を設立し代表取締役に就任。写真撮影やドローン空撮が趣味